説教 6月23日 「ロバに乗る身低き主」

聖書 マタイによる福音書21章1〜11 節

紀元前8世紀の終わりにユダ王国にイザヤという預言者が現れ、国の内部で、またアッシリアという超大国の支配のもとで、弱肉強食が当然のように横行していた時代に対して、神からユダヤと全世界に与えられる約束の言葉を伝えました。それによれば、昔ダビデ王が出たその同じ根から神は、一人の新しい王を建て、その王のもとで、全世界が新しくされる、というのです。その王のもとで、「狼は子羊と共に宿り、豹は子ヤギと共に伏し、子牛、若獅子、肥えたる家畜は共に、小さい童に導かれ、獅子は牛のように藁を食い、乳飲み子は毒蛇のほらに戯れる」というのです。猛獣が、弱い動物を襲って食うということがなくなる、猛獣が草を食べて生きるようになる、動物たちが、弱い者の中で最も弱い乳飲み子(新しい王は乳飲み子にまで自分を低くされる!)に導かれる、というのです。そこでは、誰も損わず破ることもない。」人間をはじめ生き物たちが、恐れも不安もなく共に和らいで生きる世界!神はこの弱肉強食の世界に、ダビデの子を送られて、このような世界を実現される、というのです。その王には、神の霊が宿り、確かな知恵と決断行動力、神を畏れる謙虚さの霊が宿る、だから目の前の大きい者の声に惑わされず、小さ低い声で呻く弱く貧しい人々の権利を重んじて正しい裁きを行う、そしてその口から出る言葉の鞭によって、権力におごる者を裁く、というのです。これは明らかに、その七百年後に現れた私たちの主イエスのことを、未だ見ずして、神から示されて語っています。主イエスが来られ、神の国の到来を当時のユダヤの貧しい人々に告げ、十字架につけられて死んで甦られたのは、力や富におごる人々の支配が、取り去られ、すべての人々が神から新しい命を与えられて、このような狼が子羊と共に宿り、豹が子ヤギと共に伏す世界が実現するためでありました。それなのに、この世はなおまだ古い世界のままで、狼が子羊を、豹が子ヤギを犠牲にして、その命を脅かし圧迫している世界が続いています。人々はそのような世界を信じ、「勝ち組」という狼の側に立とうとして、互いにせめぎあっています。狼の側に立っても決して満たされず、命の芯はうつろです。振り落とされたと感じた人の中には、自分より弱い者に、強さを見せつけるために暴力をふるう者さえでてきます。私たちは日々、そのような悲惨な世界と向き合わされています。しかしそのような世界は、主イエスの十字架の死によって裁かれ、もう終わった世界なのです。今日の箇所にあるように、主イエスは、その十字架の、そして復活の勝利に向ってエルサレムの町に、御自身を身低き王として馬ならぬロバに乗って入城し、人々から「ダビデの子にホサナ」と歓呼されました。新しい恵みと平和の世界の到来です。過ぎ行く古い世界に同調せず、希望をもって忍び耐えつつ、来たるべき恵みの世界に向って歩みましょう。その世界は主によってもう始まっているのですから。

2019年10月23日